研究室
糖鎖生命工学研究室
Glycobiology
スタッフ
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准教授
佐藤 武史
糖鎖生命工学研究室
研究内容
「ヒトを見たらタンパク質だと思いなさい」とは、大学の生化学の恩師の言葉でした。しかし、私たちの体を構成するすべての細胞の表面は、タンパク質や脂質に結合した糖鎖で覆われているので、本当は「ヒトを見たら糖鎖だ」と思わなければなりません。糖鎖は「癌」などの病気になると構造が変化することから(図1)、病状の診断のためのバイオマーカーとして使われています。
図1.細胞の癌化に伴って糖鎖構造は変化する
また、糖鎖が正常に合成できないマウスは臓器の形成がうまくいかないために生まれてこなかったり、様々な異常を示します。このように、糖鎖は生命現象に密接に関わっています。私たちは糖鎖の働きを分子、細胞、個体のレベルで解明し、その機能や発現制御機構を生命科学・医薬分野へ応用し社会に貢献したいと考えています(図2)。
図2.糖鎖の発現制御・機能の解明とその応用
1. 糖鎖の発現制御機構の解明とその応用
私たちは、癌や疾患に関わる糖転移酵素の転写制御を明らかにしてきました [Sugiyama et al. (2017) Biol. Pharm. Bull. 40, 733; Tange et al. (2019) Glycobiology 29: 211; Tange et al. (2021) Biol. Pharm. Bull. 44, 557]。今後、これらの酵素の転写制御機構に着目して、酵素遺伝子の発現を阻害する薬剤を簡便かつ高感度に検出できる新規スクリーニングシステムを構築していきたいと考えています。
2. 糖タンパク質糖鎖の機能解析
糖鎖は細胞膜を構成する接着分子や細胞増殖因子受容体などの重要な役割をもつ糖タンパク質に結合し、これらの分子の機能を調節しています。分子の糖鎖修飾を改変するために糖鎖を合成する酵素の発現を調節したり、分子内の糖鎖結合部位に変異を導入したりすると、癌細胞の悪性形質が抑制されることを見出しました。今後、細胞内で起きているシグナル伝達の変化にも着目して、癌悪性形質の抑制メカニズムを解析していきます。
3. 癌幹細胞性を糖鎖で制御できるか?
腫瘍中にわずかに含まれる癌幹細胞は自己複製能と分化能を有し、抗癌剤に耐性を示すことから癌再発の元凶となります。私たちは糖転移酵素遺伝子の発現を制御することで、癌の悪性形質を抑制できることを見出してきました [Kinouchi et al. (2020) Biol. Pharm. Bull. 43, 747]。癌細胞と癌幹細胞の糖鎖構造の相違を明らかにして、糖鎖の発現を調節することで癌幹細胞性の制御を試み、癌を根治する技術を開発していきたいと考えています。