研究室
植物エピジェネティクス工学研究室
Plant Epigenetics Laboratory
スタッフ
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准教授
西村 泰介
植物エピジェネティクス工学研究室
研究内容
生物は、ゲノム上の膨大な遺伝子情報の中から、状況に応じて必要な遺伝子の情報を読み取り、適切に発現するための、エピジェネティクスと呼ばれる“仕組み”を持っています。このエピジェネティクスには、DNAやDNAとクロマチンを構成するヒストンタンパク質における化学修飾(メチル基の付加など)が大きく作用する事がわかってきました。植物工学においても、外来遺伝子の導入や遺伝子機能の改変にエピジェネティクスが深く関与しています。私たちの研究室では、エピジェネティクス研究が進んでいるシロイヌナズナやトマトなどの植物を研究材料として、植物におけるエピジェネティクス制御機構を解明し、新しい遺伝子導入技術や育種技術の開発基盤を得る事を目指しています。
GFP形質転換植物の細胞を蛍光顕微鏡で観察中。
1. DNA塩基配列を改変しない新しい育種法の開発
従来の育種法では、日本でも実用化されているゲノム編集なども含めて、遺伝暗号(DNA塩基配列)の改変(突然変異)が、病原菌耐性、収量増加といった有用形質を生み出すことを利用してきました。一方でDNA上のメチル基の付加や脱離も、遺伝子機能の変化を引き起こすことが明らかになってきました。私たちはこのようなDNA塩基配列情報の変化を伴わない遺伝子機能の変化が有用形質を生み出すことから、育種に利用できると考えて研究を進めています。メチル基の付加・脱離は可逆的な反応であることから、DNA塩基配列情報の改変に比べて、元の状態に戻すことが比較的容易で、サステナブルな技術であると言えます。
病原菌を感染させたシロイヌナズナ。DNAメチル化を変化させた系統(下)が元の系統(上)に比べて病原菌に対する耐性能力が上昇しています。
2. 導入遺伝子における遺伝子サイレンシング機構の解明
多くの植物種で遺伝子の導入技術が確立されつつあり、様々な有用形質を持った遺伝子導入植物の作出が試みられています。しかし植物に導入された外来遺伝子では、しばしば発現抑制(遺伝子サイレンシング)が生じ、目的の形質を持った遺伝子導入植物を作出する事ができません。この遺伝子サイレンシングは、導入遺伝子のDNAにメチル基が付加されることで(DNAメチル化)、引き起こされる事が知られており、近年その制御機構の解明が進んでいます。私たちの研究室では、導入遺伝子のDNAメチル化による発現制御に関与する新規因子の突然変異体の単離に成功しており、これらの突然変異体の解析から、遺伝子サイレンシングに、どのようなタンパク質が、どのような分子メカニズムで作用しているかを明らかにする事を試みています。
DNAメチル化されたレポーター遺伝子が導入されたシロイヌナズナの芽生え。上は明視野像、下はレポーター遺伝子活性(緑)と地上部における色素(葉緑素)の自家蛍光(赤)を示しています。レポーター遺伝子の活性をモニターする事で、DNAメチル化によって制御される遺伝子発現の状態を容易に知る事が可能になります(発現の強さ;左>中央>右)。