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【プレスリリース】リグニン・β-1型二量体の脱ホルミル化酵素の酵素機能と触媒メカニズムの解明  政井教授・上村准教授

2023.01.24


【プレスリリース】リグニン・β-1型二量体の脱ホルミル化酵素の酵素機能と触媒メカニズムの解明 政井教授・上村准教授

微生物代謝工学研究室の政井英司 教授、上村直史 准教授、加藤諒 博士課程学生(社会環境・生物機能工学分野1年)らの研究成果が、2023年1月18日付で「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」の電子版に掲載されました。
研究論文は以下のURLからオープンアクセスで閲覧できます。
https://doi.org/10.1073/pnas.2212246120
 
政井教授らは、米国再生可能エネルギー研究所(Gregg T. Beckham Senior Research Fellowら)、ポーツマス大学(John E. McGeehan教授ら)、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(Kendall N. Houk教授ら)、オークリッジ国立研究所、Diamond Light Sourceとの共同研究により、Sphingobium sp. SYK-6株を含むスフィンゴモナド科細菌が有するβ-1型二量体の脱ホルミル化酵素(LdpA)について遺伝子及び酵素機能並びに立体構造解析に基づき触媒メカニズムを明らかにしました。β-1型二量体は植物バイオマス成分のリグニンに由来する化合物であり、本研究成果は自然界の炭素循環への理解を深めるとともに、細菌の代謝能力を利用したリグニンからの有価物生産を促進すると期待されます。
 

研究題目

Biochemical and structural characterization of a sphingomonad diarylpropane lyase for cofactorless deformylation

研究概要

植物バイオマスの主要成分であるリグニンは、地球上で最も豊富な芳香族資源であり、脱炭素社会の構築に向けて化学工業原料としての利活用が望まれています。リグニンは、多様な結合様式からなる複雑な構造のため、従来の技術では化学工業原料としての利用が困難とされていました。最近、高分子リグニンの化学分解で得られる不均一な低分子リグニンを微生物代謝系により機能性ポリマーの原料となる基幹化合物へと変換する技術が注目されています。しかし、多くのリグニンの化学分解プロセスでは、β-1型結合等を持つ芳香族二量体やオリゴマーが残るため、高効率なリグニン利用を目指すためにはこれら化合物の分解系を解明する必要があります。
微生物代謝工学研究室で解析を進めているSphingobium sp. SYK-6株はβ-1型結合を含むリグニン由来芳香族二量体や単量体を分解し、機能性ポリマーの原料となる2-pyrone-4,6-dicarboxylic acidへと集約的に代謝することが可能です。当研究室では、これまでにリグニン由来のさまざまな分子間結合を持つ芳香族二量体の代謝システムを明らかにしてきました。β-1型モデル二量体の1,2-diguaiacyl propane-1,3-diol (DGPD)は2つの不斉炭素を持ち、threoerythroのジアステレオマーが存在するため4つの立体異性体が存在します。本研究では、約30年前にその存在が示されたものの実体が不明であった補酵素非依存的にerythro型DGPDの脱ホルミル化を触媒する酵素LdpAについて、SYK-6株から遺伝子を同定し、酵素学的諸性質、動力学的パラメータ、X線結晶構造解析から触媒残基と反応機構の解明に成功しました。LdpAはnuclear transport factor 2 (NTF-2)-like protein familyに属し、本ファミリーでは脱ホルミル化反応を行う初めての例です。本研究成果は、細菌の代謝能を活用したリグニンからの有価物生産系を高効率化する上で有益であることに加えて、NTF-2-like protein familyの触媒反応のバリエーションを拡張する学術的な発見をもたらしました。今後は残りのジアステレオマーであるthreo型DGPDの代謝系の解明が期待されます。

 

関連リンク

米国科学アカデミー紀要(PNAS)の論文掲載ページ
微生物代謝工学研究室(政井英司 教授、上村直史 准教授)紹介ページ
微生物代謝工学研究室(政井英司 教授、上村直史 准教授)ホームページ